見習いインフォマティシャンのノート裏

メタボロミクスに関わるバイオインフォやケモインフォの研究が生業。

Fermentor制御を目指した論文

Flux Balance解析というシミュレーション技術がある。

それを利用したFermentor制御を目指している論文である。

 

Microbial Cell Factory, 2019

microbialcellfactories.biomedcentral.com

 

 

【背景】

バイオ生産においては、酸素というのが重要な因子であり、培養中に酸素を「賢く制御」することが必要となる。

酸素をできるだけ与えるのではなく、適度な量で制御する技術が必要となる場合がある。これは、酸素が多い場合に副産物が作られてしまう、目的とする生産物の収量が減る場合などである。

 

【先行研究と課題】

溶存酸素をアルゴリズムで制御しようという試みの論文。

よく用いられるPDI制御ではなく、self-tuning generalised minimum varianceで制御を行ている。制御系によって到達菌体量が異なるみたいですね。

Self-tuning control of dissolved oxygen concentration in a batch bioreactor - ScienceDirect

 

 Fermentorに菌体を満タンにすることを目指した制御系の論文。

炭素源取り込み速度、酸素取り込み速度、アンモニアのパラメータを利用して、動的モデルにfittingして制御している。

A novel model-based control strategy for aerobic filamentous fungal fed-batch fermentation processes

 

溶存酸素の制御を、Neural Networkで行う試みの論文。

線形モデルと、多項式モデルを利用している。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/cae.20430

 

これらの研究は酸素をいかにいっぱい与えるか?という狙いで行っているが、微好気の条件における制御については、苦手としている。ワクチン生産や、バイオ燃料生産においては、微好気条件が望ましいとされているので、制御することが求められている。

 

【解決策】

Genome scale model(GSM)を用いたフラックスバランス解析を利用する。

 

ちなみに、酵母では、下記のような化合物生産を目指してGSMが適用されている。

コハク酸

Genome-scale modeling enables metabolic engineering of Saccharomyces cerevisiae for succinic acid production | SpringerLink

 

フマル酸:

Fumaric acid production in Saccharomyces cerevisiae by in silico aided metabolic engineering

 

エタノール

Enhanced hexose fermentation by Saccharomyces cerevisiae through integration of stoichiometric modeling and genetic screening - ScienceDirect

 

2,3-ブタンジオール:

Production of 2,3-butanediol in Saccharomyces cerevisiae by in silico aided metabolic engineering | SpringerLink

 

チロシン

Metabolic engineering of a tyrosine-overproducing yeast platform using targeted metabolomics | SpringerLink

 

このGSMは、化学量論モデルである。つまり、一連の代謝反応を化学反応式で記述して、それらを繋げることで構築されるものであり、化学量論係数に着目して計算を進めていく技術である。

フラックスバランス解析では、定常状態を仮定する。つまり、取り込んだ基質はすべて菌体生育か何らかの排出物として使われる前提で計算される。しかし、実際の培養プロファイルで、この仮定は成立しないと考えられる。(途中でプールされることなどもあるため)。

また、フラックスバランス解析は、化合物の量についての時間変化を、化学量論係数と代謝フラックス(mmol/gDCW/h)の積となる、という微分方程式を解く計算である。定常状態では、時間変化が0であると考えられるので、代謝フラックスがいくらになれば0になるのかを解くことになる。

ここで出てくる代謝フラックスを用いることで、センサーの制御幅を決めるくらいの計算ならばできるのでは?と考えて研究を進めている。

 

【新規性】

FBAで出てくるフラックスでの制御ができそうなことをはじめて示しており、高いエタノール生産性を示していることから有効性は見えている。

 

アルゴリズムとしては簡単に実装できそうではあるので、あとはいろいろな系で適用できるのかを検証するところが今後のポイントか。